~ くれよん2020年8月号掲載 ~  子どもたちに、自然、生き物を通じてたくさんの”発見”をしてほしい

~ くれよん2020年8月号掲載 ~

子どもたちに、自然、生き物を通じてたくさんの”発見”をしてほしい

一宮市に”むし仙人の通訳”がいる。
昆虫愛好家の高原寛徳さん。
いつから昆虫にはまり、愛好家になったのか。
昆虫界のことや、活動、これからのことを聞いた。

”むし仙人”の通訳

去年の夏、138タワーパークのイベント 案内に「むし仙人」なるワードを発見。
調べていくと、”むし仙人の通訳”こと昆虫愛好家の高原さんが関わっていることがわかった。

高原さんがむし仙人なのか?

「僕は会った ことがありますが、僕しか会ったことはない でしょう(笑)。だから通訳をしています」

と高原さん。

むし仙人から「昆虫界と人間界 をつないでくれ。自然がなくなってきて、苦しいんだよ」と言われたそうだ。
そう、高原さんはむし仙人に出会えるほ ど、昆虫の世界にのめりこみ、昆虫たちを、自然を愛する人。
昆虫など生き物の知識は 博士級、採集テクニックは超一流。昆虫のことならなんでも教えてくれる、一宮の昆虫先生だ。

生き物と関わりながら、大人になる

幼い頃から虫や魚といった生き物が大好きだった。
小学生になり昆虫施設の学びの集まりに参加し始め、一気に昆虫熱がアップ。
知識だけでなく、採集や標本に欠かせない技術的なことも習得していった。

「バケツいっぱいにザリガニを捕る小学生でした。ドブやあぜ道が好きで、高学年になると植物も好きになっていきました。 高校の時は水草に魅かれて、そこから熱帯魚も飼うようにもなって。部屋中が水槽だらけでした」

と高原さん。

虫に限らず、自然が大好きだった高原少年は、中学・高校時代、自転車小僧とも化していた。
昆虫たちがいる山に行くにも、交通手段は自転車しかなかったからだ。

部活のない土日は、早朝出発し、虫を捕って夕方帰宅。
目的地は一般的には自転車で行こうとする距離ではない。

「知多半島や琵琶湖は日帰りコース、親戚の民宿がある白川郷は一泊コースでした。今思えば病 (笑)」。

太ももが超人的に発達していた高校時代、高原さんに大きな影響を与えた虫仲間との出会いがあった。

「高校1年の時の数学の担任だった牛山 正人先生です。先生はトンボが大好きで、先生の車に乗って自分が自転車でみつけた場所へ一緒に行って、先生は写真を、自分は虫を捕る。大人の虫仲間ができて、また虫にはまっていきました」。

高校卒業後は、生き物施設への出向を期待して鉄道会社に入社。
しかしバブル崩壊による不況の波が押し寄せ、その夢は絶たれ自主退社。

いずれ継ぐ家業のために金属加工工場で働き始めたものの、どんどん不況になっていく社会の中で、同じ働くなら好きなことをしようと、チェーン展開するペットショップに自ら面接を申し入れ、パート職で採用された。
自身がやりたかった仕事はこの上なく楽しく、生き物たちを魅力的に紹介する才能も認められ、店長に抜擢。
「正に天職」と充実した日々を送っていたが、体調を崩した。

微小変化型ネフローゼ症候群を発症。3か月以上に及ぶ入院治療後、職場復帰したが、動物によるアレルギーが再発の原因の一つにもなることがわかり、ペットショップを辞職。

「生き物に関わる仕事ができない身体なら、仕方がない。仕事は家を継ぎ、生き物は趣味にして、これまでに得た生き物の知識を子どもたちに提供するボランティア的な活動をしていこうと、気持ちを切り替えました」

と高原さん。

あちこちに昆虫企画を持ち込み、市民活動をスタートさせた。

自然の中で遊ぶと、自然の良さがわかる

今、主な活動の場となっているのは、138タワーパークをはじめ大野極楽寺公園、木曽三川公園センターなど、イベントを行っている地元の公園施設。

屋内スペースでは昆虫標本の展示や教室、カブトムシイベントを開催したり、屋外では採集の仕方などを子どもたちに教える虫捕りイベントを実施したりしている。

今年の春からは新型コロナウィルスの影響で、イベント企画が相次いで中止になってはいるが、状況に応じて開催される イベントもあるので、興味のある方は各公園のホームページを確認してほしい。

ツインアーチ138で開催された「最強カブト決戦」の様子。子どもたちの眼差しはキラキラ
FMいちのみやのスタジオにて。担当番組内では、当然、虫のおもしろい話が聞けるコーナーも。

市民活動を続ける中、人前で話す勉強がしたいと思っていた昨年の春、虫捕りイベントにFMいちのみやの中継が入った。

それを きっかけにオファーがあり、講習を受けて、同局のパーソナリティーとしても活躍している。

また、今年4月には138タワーパーク内にあるビオトーブ施設「もくもくパラダイス」 の代表に就任。

自然体験プログラムを開催している「もくパラ倶楽部」で生き物イベントを月1ペースで担当し、樹木や池があるフィールドを最大限に活用した新しいブログラムを計画している。

高原さんは、「子どもたちが虫や自然と触れ合う機会を作りたい」という思いを持ち続けている。

それは自身の経験から、「子どものときに自然の中で遊び、自然に興味を持つことで、自然の良さ、大切さがわかり、 後々、自然保護の意識につながるのではないか」と思っているからだ。

大野極楽寺公園のイベント、「昆虫調査隊」の様子

「昆虫は、その場所で生きられるものが そこに棲んでいます。少し場所がずれるだけで、公園の南側と北側、花壇の花によって、棲んでいる虫が違う。そこが虫の面白さだと思います。身近な場所でそんな”発見”を たくさんしてほしい」

とも言う。

昆虫を見つけたら、捕まえたくなるもの。
網を振って捕まえたら、虫かごに入れると、 いろんな角度から虫を観察することができる。
観察後はその場でリリースが基本。もし飼うなら、捕まえた場所の自然を切り取ってきたような環境を整え、一度飼育した虫は自然界に戻さないのが鉄則だという。

「自然界にいる昆虫は、生き残ってきた最強エリートたちです。飼育した虫たちによって菌やウィルス、あるいは弱い遺伝子などが自然界に持ち込まれると、エリートたちに良くない影響が出てきますから。飼うなら最小限で、最後まで」

と教えてくれた。

様々な体験をし、好きなことを見つける

昆虫を通じて多くの子どもたちと触れ合う中で、感じているのは「子どもに様々な体験させることの大切さ」だ。いろんなことに興味を持ち、そこから自分の好きなことを選ぶために、子どもたちの選択肢を広げるのは大人たちの役目。

「自分の得意なことを、自分の子どもだけじゃなく、みんなに教えてあげればいいのではないでしょうか。”みんなで子育て” です」

なるほど。高原さん自身、高校時代に牛山先生との出会いがなければ、今はなかったかもしれない。
近い将来、今の活動を次世代に伝え、自分は補助に回りたいと考えている。実は他にもやりたいことが山積しているのだ。

「標本をアート的に展開してきたいと思っています。 虫だけじゃなく、化石やビーチコーミングにも興味があって」

と瞳を輝かせる。

最近は、数が減ってきている昆虫を採集することはあまりなく、カメラでの撮影が中心となった。
レンズ越しの虫たちには、自転車小僧だった頃と何一つ変わっていない熱い昆虫愛が、たっぷり注がれているに違いない。

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